見えない糸


ゆっくりと星の光が消え白い光を持つ太陽が現れるものの
どこか静かで浄さを感じる空。
毎日のざわめきもない朝を迎える中、
1台の車がエンジン音を出しながら走って行った。

「ねぇ、功兄どこに行くの?」

後部座席から眠たいのか、数回瞬きを繰り返し
運転をしている功に言葉をかけると
ミラーに写るを見

「今から静岡へ行くんだ」

「しずおか?」

「あぁ」

返る言葉に不思議そうに首を傾げ、
流れて行く風景を眺めて過ごす。

高速で流れる風景が、高層ビルの間から木々の緑が見え
時々見える海の波間に反射する光や船、
変わっていく風景を飽きる事無く眺めている。

休憩にと、止まるドライブインで深呼吸するものの
排気ガスのニガさを感じ取り、体に入ったガスを吐き出す為に
2・3回セキをしていると

「大丈夫?」

心配そうに覗き込んでくる将に
大丈夫だと頷き返し、2人並んで駐車してある車へと向かう。

言葉なく歩く将を見ながら、首を捻る。

いつもとチガウような・・・

ハッキリとどこが違うとは言えないものの、
微妙な違いを感じ考え込んでいく。

なんだろう?
今から行く所に何かあるのかなぁ・・・

ドコか違う原因を考えながら歩く。

深くまで考え込んでいたのか、
急に腕を引っ張られ、動かしていた足が着地地点を無くしバランスを崩し
コケかけるが、何とかバランスを取り腕を引かれた方に首を動かすと
心配そうな将の表情が目に入り、

「ゴメンね・・・」

何度も呼んだんだけど聞こえてなかったみたいで・・・

申し訳無さそうに誤る声に意識を戻すと
今まで乗ってきた車の前だった。

ゆっくり周りを見渡し、状況が解り、

「私の方こそゴメンね」

正面に向き合い、苦笑しながら誤りを入れ、
お互い苦笑し合っていると、

「将、、そんな所で立ってると危ないぞ」

買いも袋を片手に不思議そうに見下ろす功に、
視線を移し頷き、促されるままに車内へ入り座席に腰を落すと
運転席からペットボトルが渡され、礼を言いながらキャップを開け
ミルクティーを飲んだ。

ほのかに甘いミルクティーが
雁字搦めになってしまった考えを解いていく気がした。

ゆっくりと動き出す車は海を見せ、山の緑を見せ
街中を走ると、途中花屋で止まり
白色の菊、黄色い菊が入った花束を2つ買うと、
再び車は走り街中を離れると前には、
霊園と掘られた石碑を通り過ぎると駐車場へと入り車から降りる。

クーラーの涼しさに慣れた体は夏の温度になっている外気に
汗ばみ、眩しすぎる太陽の光に目を細めていると、
先程買った花束とトランクに積まれていた荷物とサッカーボールを出し、
矢印の書かれている方向へ歩き出した。

遊歩道のように整地され、両脇には色とりどりの花が咲き乱れている。

そんな道も少しで、暫く歩くとお墓が並びお線香の匂いが流れ
手を合わせている人達がいる。

並んだお墓の間を歩く功の背中を見ながら、
置いて行かれない様に小走りに着いて行く。

寝ぼけていたの洋服を選んだのは功だ。

いつものパステルカラーではなく、
グレーを中心とした落ち着いた色でシンプルな上下。

斜め前を歩く将も黒の服ではないものの、
暗めな色の服を着、家長である功も、
金髪ではあるが、ダークグレーのスーツを着てる。

行き先を知らなかったのは自分だけだったのだろう・・・

お盆なのだからお墓参りは当たり前なのだか
風祭家は近年、墓参りは無かった。

なぜ、急に?

疑問が浮かび、答えを出す為に考え込む。

少ないヒントで答えを出す為に、
色々な答えを出し正解かどうか考える。

周りが見えなくなる程、考えに集中していたのか
手からなにか落ち、足に当たる感覚を受け、
意識を戻し、足元に視線を移すが自分の足以外は無く
不思議に首をかしげていると、後ろの方で跳ねる音が聞こえ
勢い良く振り向けば、手に合ったはずのサッカーボールが、転がり出していた。

「待って!」

口か出た言葉と同時に体を反転させ足を動かしボールを追いかけた。

後ろから将と功が名前を呼ぶが振り返らず、
転がっているボールを必死に追った。

速度を落す事の無く転がるボールは
走っているとの距離を一定に保つ。

「お願いだから、待って!」

息を上げ、ボールに声をかけながら追うが、
言葉が解らないボールはのお願いを聴く事無く転がっていく。

自然に止まってくれるだろう、
そんな事を思いながら走っていたのが油断だったのか、
の体力が限界へと近づき、走るペースが遅くなる。

一定だった距離が開いて行く。

「・・本当に、おね、がいだか、ら、待って・・・・」

息を乱し、途切れ途切れに漏れる言葉に、
ボールは跳ね上がり、空へと向かった。

いきなりの動きに足を止め、空へと飛んだボールを見ると
重力に引かれる様に地面へと落ちていく。

落ちる・・・・

意識では解っていたが、走り息を乱した体が反応せず
ボールを視線で追うと、音を鳴らしもう1度空へと跳ねた。

青い空へ向かっていく白色と黒色は綺麗に映え、
まるで写真を見ている様で、何度も空へと向かうボールを見ていたが
空高く上がったボールは2度と上がらず、地面に落ちる事無く手に収まっていた。

ぼんやりと見ていたに、ボールを出され

「あんたのボールだろ?」

「え?」

言われた言葉が理解できず、聞き返す

「お願い、待って。
 て、言ってたからてっきりアンタのだと思ったんだけど違うのか?」

再び問われ、言われている言葉の意味を理解したのか

「はい、私のです!
 ありがとうございます!」

早口で返事を返し、勢い良く頭を下げると
笑い声が聞こえ、

「いや、良かったな、ボールが戻って」

差し出されているボールを受け取り、
笑われたままの言葉に、さっきまでの自分の行動に恥ずかしさを感じ
赤くなりながらも

「本当にありがとうございました」

頭を下げ礼を言う。

「いや、俺は本当に何もしてないから」

片手を挙げ、苦笑されるが、再度礼を言い今まで走った道を
歩いて戻って行った。

心配そうな表情で自分を見ている将と功の姿が見えると
無意識に足を速め、近くまで行くと足は走っていた。

「ごめんなさい」

小さく上下させている肩を隠す様に、胸の前で祈る様に絡ませ
謝罪の言葉を声にすると

「1人で行くと迷子になるぞ」

功の大きな手がの頭を軽く数回叩くと
背を向け目的の場所へと歩き出し、
微笑みながら功とのやり取りを見ていた将も、
功に従う様にに背を向け歩き出す。

行き先は2人の兄が待っていた場所より少し歩いた所にあった。

持っていた、タオルで墓石を拭き、
生えていた小さな雑草を取り、
綺麗になれば買った花を入れ、線香とロウソクに火を灯す。

初めて足を踏み入れた時より綺麗に見えた。

『 潮見家 』

将が丁寧に磨いていた石に彫られていた名

2人の行動1つ1つが丁寧で親しみのこもった動きで
なんとなく大切な人だと解った。

だから、

『始めまして、風祭です。
 功兄と将の大切な人』

目を閉じ、心の中で言葉を作った。

数秒暗くしていた視界から明るい世界を見ると、
光が目を刺し何度か瞬きをし両横に居る兄の顔を見る。

目を閉じ手を合わしていた将が暫くして目を開けると、
の視線を感じたのか、微笑み返す。

も同じ様に微笑み返すが、

「将もサッカーを頑張ってます。
 今年から桜上水へと転校してレギュラーを取ったんですよ。
 しかも、番号は『9』ですよ!
 東京選抜にも選ばれてます。頑張ってますよ、将は」

隣から聞こえる声に耳を傾ける

も可愛いんです!
 もう、何が可愛いて全てが可愛いんですよ!
 何を着せても似合いますし、誰よりも可愛い!!
 優しいし、料理も出来る、気も効く、
 こんな良い子他に居ない!」

段々大きくなり力がこもる声に

「功兄、心の声もれてるよ・・・」

の呟きも功の力説によってかき消された。

数十分、自分達の褒められる言葉を、
恥ずかしくて照れくさくなり呆れながら聴いていると、
全て話したのか、スッキリした表情で目を開け

「お前達の良い所は全て伝えたからな!」

微笑みながらの言葉に、頷く事しか出来ず
満足そうに別れを告げ、背を向け歩き出す功の姿を
ゆっくりと追った。

並んで歩き出すが、将に気付かれない様に
横目で墓を視界に入れ潮見の文字を見る。

どんな人なんだろう・・・
話、聴かせて貰えるといいなぁ・・・

視線をゆっくり戻し、家長の広い背中を見ながら
将と手を繋いだ。

顔を見ることもせず、視線も動かさず、手を繋ぐ。
イヤとか、邪魔とか、負の雰囲気を感じず自然と繋ぎ
離れない様に入れられた力が優しくて、静かに微笑む。

小さな頃に戻った気がした。

いつも隣にいた。
どこに行くにも一緒だった。
2人で笑い合った。

隣にはいつも将がいた。

そんな頃に戻った気分だった。

行きに歩いた道を歩き、駐車場に着くと車に乗り
東京へと向かう。

明日からは選抜の合宿
帰ったら、荷物を纏めないと。

揺れる車内で考え事をしていたが、
いつの間にか夢の中で考え事をしていた。

ミラーから見える2人の寝顔を時折見つつ、
車を東京へと走らせた。